アイデア出しから試作品造りまでを一人で行う4代目とは?
酒蔵で新商品を開発するとすれば、通常は社長や社員の中からアイデアが上がり、その企画をもとにした試作品造りは杜氏に任せる。仕上がりについて社長が意見を述べることはあっても、味や香りの微調整などはやはり杜氏が行う。ところが、4代目の八木威樹さんはそれら全ての工程を一人で手がけてしまう。
そして、これこそが八木酒造の最も驚くべきポイント。「とりあえず、やってみないと気が済まない性格。今考えてみると、小さい頃から化学が好きだった、っていうのも影響してるんかもな…」。
そう語るように、八木さんは典型的な理系人間。幼稚園のころにおじいさんの家で“中学生の実験”という本を読んでから化学について興味を持ち、以来子供ができるような簡単な実験をちょくちょく試していたとか。「母方のおじいちゃんが配置薬を作る仕事をしとってん。家には測りやら、実験道具やらいっぱい並んでたし、化学に馴染みやすい環境やった」。梅酒を造るまでにも、実にいろいろ試す。梅の皮に傷をつけてみたり、サトウの代わりに塩を入れたり、梅の種だけを漬けてみたり…。結果、おいしいと思えるものは突っ込んで研究。アルコール、水、アミノ酸の割合などを細かくノートに書き留め、その数値を変えては納得いく味わいに仕上げいくのだ。
酒造りの底辺にあるのは、きっちり丁寧な職人技。
八木さんが生み出したレシピを造るのが、杜氏をはじめとした蔵人の役目。創業の江戸時代より受け継がれてきた趣のある蔵で、きっちり丁寧な職人技が毎日繰り広げられている。「ここら一帯は“清水通り”っちゅうて、昔から知られる名水地なんや。うちんとこ以外にも4軒くらい酒蔵があったんやけど、ほとんどなくなってしもた」。
古くからの歴史と伝統を持つ酒蔵ゆえに、製造過程においても極力機械には頼らず、手作りにこだわる。「仕込みの時期には、総動員で西吉野や月ヶ瀬の山々に梅の収穫に行くこともある。僕もカゴをぶら下げて収穫すんねんで」。そうやって苦労して収穫した梅は、エキス分38%、アルコール度数19度という考えられないような数値を実現した“月ヶ瀬の梅原酒”をはじめ、江戸時代のレシピ&工程を再現した梅酒の原料として使われ、味わいや香りにさらなる深 みを与えている。
これからもずっと、飾らず、気取らず、自然体。

取材も終盤に近付き、八木さんが東京で暮らしていた時代の頃に話が及び、いろんな質問を投げかけてみた。一度離れてみて改めて感じる奈良のいいところは?「空気がいいなぁと思った。県庁所在地から若草山や春日山の原始林が目に入るところってなかなかないやろし…」。逆に、ここはずっと残していきたいなぁと思ったところは?「う〜ん。。。大仏殿が潰されるとか、春日山が引っ越すとか、そういうことはまずないやろし…。残しておきたいというよりも、多分勝手に残ってはんねんやろうなぁと思う」。八木さんの言葉はいつも、飾らず、気取らず、自然体。そんな言葉を発す朴訥な社長が先頭に立っている限り、この酒蔵も飾らず、気取らず、自然に残り続けていくんだろうと思った。
蔵人プロフィール
- 八木酒造4代目 八木威樹さん
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1959年奈良市生まれ、47歳。同志社大学卒業と同時に東京へ移り、家電メーカーでSEとして働く。八木酒造に戻ったのは約8年後。家業を継いだ後、 清酒の伝統を受け継ぎつつ、焼酎、リキュー ル、みりん、スピリッツと、新たな分野にもチャレンジしている。
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