2020.10.22

うまい、まずいではなく迫力。「羽根屋」を作る蔵元の手

「お酒を造るとき、今の立場になった怖さと、
若いころの怖さは何が違いますか?」

この問いに、富美菊酒造の杜氏・羽根さんはこう答えました。

「若いころは、ぎりぎりの生活の中で生み出す環境の怖さ。
今は、その頃の迫力を取り戻せないことです。」

絵の具を買うか、その日のご飯を買うか迷ったとき
絵の具を買う。
思わずご飯の方に手が伸びそうになるけれど
絵の具を選ぶ。
そんなとある絵描きのお話をしてくださいました。

ぎりぎりの生活の中から生み出す迫力。
芸術も酒造りも一緒のように感じます。

ビビッドブルーのネクタイに爽やかなシャツに身を包んだ羽根さんは、
「地元富山湾の寒ブリが美味しいんです!」と、にっこり顔。

撮影にも気軽に応じてくださり、
おしゃべりも止まりません。

しかし、お酒づくりの話を始めると深い声色、ギラリとした目つきへ変化しました。
思わずこちらも緊張します。

今は四季にお酒が造れる時代へ変わり、
一か月の中でも目まぐるしく変化する様は
24季節があるともいわれます。

その微妙な感覚をお酒造りで感じる。

「布のめくり具合ひとつで、えらいことになってしまう。」

けれども、それを正解か失敗かで考えることではなくおもいきってやること。
そんな自身の経験こそが、微妙な感覚が育つ現場になるのだという。

自身の経験の積み重ねたお酒造りを、
後世に継ぐためには今も現場に立ち続け、
自分が居ない日もおなじものが出来るように
伝えていくのだそう。

お酒を造るには、人間性。
勘のいい子より、こつこつ積み重ねた経験と
チームワークで造り上げるもの。

そんなつくり手の人間性こそが、
お酒を未来へ繋ぐ精神性なんだと深く感じました。

富美菊酒造株式会社
代表取締役 兼 杜氏
羽根 敬喜