2021.3.24

強運を手に宿す。「東鶴」を造る東鶴酒造三代目、蔵元の手。

「僕の手相、両手ますかけなんですよ!」

天下取りの相とも言われる、ますかけ。
初めてお目にかかる両ますかけに、スタッフ一同唖然である。

リーダーシップがある、類稀なる集中力を持つ、など
様々な意味合いを持つますかけですが、
その中に「人生大逆転」という項目がありました。

私は、東鶴酒造杜氏 野中さんの
東鶴酒造をお伝えする上で欠かせない、
ある日のことをお聞きしました。

2019年8月に見舞われた記録的豪雨により、
蔵内が浸水し、麹室やポンプと冷却装置にまで
被害が及んだそうです。

槽搾り(ふねしぼり)で使用する槽は、
水が溜まりすくい上げるしかない状態に…

「あの時、蔵内を見たときに流石にもうダメだ…となりました。」

そんな呆然とする中、蔵人たちまた復興に向けて
協力してくれるボランティアの方々。

東鶴をつなぐ人々の手により、その3ヶ月後には
酒造りを再開したとおっしゃります。

佐賀県多久市に唯一の酒蔵。
以前までは多久市に9蔵あったそうだが現在は東鶴酒造のみに。
「みんなに頑張らんとねってよく言われます。」と困り顔。

「こうやって酒造りで食べていけることも、みなさんのおかげです。」
人情味に溢れる野中さんの言葉には、東鶴の味わいにも深く紐づいています。

この被害によって、設備を新しくした点により
様々な味の表現力が一新された。

今年より出荷される「東鶴 純米吟醸酒」は、
槽搾り(ふねしぼり)を辞めヤブタ式へ。

その味わいは、微発泡で軽やかにそして更に華やかに。
まさに端麗で飲みやすい形へ。

あの日から変わらない人の温かみへの「恩返し」。
そして様々な姿へ変え進化し続ける東鶴酒造の「酒造り」。

そんな話を思い出しながら飲む「東鶴」には、
滲み出す暖かい甘みと優しい迫力を感じてしまいます。

東鶴酒造 蔵人
野中 保斉