2021.7.13
- 【裏話と、】
乾いた土と、瑞々しいぶどうの蔓。
2021年6月1日。
これぞ梅雨の晴れ間というような天気。
見上げた空には雲ひとつなく、清清しいブルーが広がる。
気象庁のサイトは、最高気温29度を表示。
朝10時の時点でもう既にじわりと暑い。
今日うかがうのは、羽曳野市にある河内ワインさんだ。
社屋のある都島からは電車で1時間と少し。
まず、地下鉄谷町線で天王寺に向かい、近鉄線に乗り換える。
電車は、大和川を越え、古墳の間をすり抜けるように走る。
乗換駅の古市で一度下車し、
ワンマン電車に乗る。
最寄の駒ヶ谷駅までは、あと1駅だ。
電車にガタゴト揺られながら山の方を見ると、
ぶどうのために作られたビニールハウスが白く輝いている。
ワイナリーに近づいて来たという実感が徐々に沸いてくる。
駒ヶ谷駅到着直前、右手にある公園の遊具が、
ぶどうをモチーフに作られているのも、さすがという感じである。
電車を降り無人の駅を後にして、山の方へ歩き出す。
歩道のない道路を進み、途中、右の路地に入る。
神社の横を通過し、
しばらくすると、河内ワインさんの建物が見えてくる。
すると河内ワインの社長である金銅さんの姿があり、出迎えてくれた。
「またこんな暑い日に」と声をかけられたのだが、
確かに日差は強く、真夏のようである。
早速スタッフの方にぶどうの話を伺うと、
今年は、梅雨入りが早かったため、
開花の時期と雨が重なり、花粉が流された。
そのため、うまく結実しなかったものが例年より多いとのこと。
これを花ぶるいというのだそうだが、
確かに実が極端に少ない房もところどころに見られる。
素人ながらに、自然を相手にすることの大変さを感じる。
今日、お手伝いさせていただく作業は、蔓の誘引。
蔓はそのままにしておくと、上に上に伸びていく習性がある。
それだとまんべんなく葉に光が当たりにくくなるうえ、
実の収穫作業がしにくくなる。
また、風通しが悪いと、病気になったり、実がダメになるので、
蔓の密集を解き、横に広げるように、
棚に結び付けていくことが必要になるそうだ。
作業はいたってシンプル。
蔓の絡まりを解く。
蔓を四方にばらけさせる。
升目状に張り巡らされた針金の棚に、
針金で蔓をくくりつけていく。
ぶどうの葉で、影を作っていくようなイメージだ。
蔓は、乾いた地面とは対照的に、驚くほど瑞々しい。
とてもしなやかで、
多少無理に引っ張ってもほとんど折れることがない。
困ったのは、ずっと上を向いての作業なので、
徐々に首が痛くなってくることだ。
ベテランの方なら何か対処方法を知っているかもと思い、
「首が痛くならない方法ってありますか?」とたずねると、
笑いながら「基本ないですね」と、答えてくれる。
そりゃそうか、と思うと同時に、
ワインの一滴は血の一滴なんて言葉が頭をよぎる。
簡単に美味しいワインは作れないのだ。
休憩をこまめに挟み、4時半ごろまで作業。
今日はこの時間だったが、
朝の8時ごろから夕方6時ごろまで作業する事もあるというから頭が下がる。
自分が今日作業した面積など、3m×20m×3列くらいに過ぎない。
山一面に広がるブドウ畑一つ一つに手が入れられている考えると、
とんでもない事のように思う。
片付けをし、靴についた土を払う。
日差しはまだ強く、ぶどうの影はくっきりしている。
畠から河内ワインさんの建物に戻ると、
「ワインの試飲をしていってください」と声をかけていただいたので、
ありがたくいただく。
最初にグラスに注いでくださったのは、今日作業したデラウェア種のワイン。
爽やかな果実感があって瑞々しい。
乾いた身体に優しく染み込んでいく。
半日ぶどうの木に触れていたので、
いつもとは違う特別感もある。
容赦なく降り注ぎ続けた日差しと、
首の痛みに耐えたかいががるというものだ。
今日のお手伝いを通して、ワイン作りの基礎であるぶどう作りが、
いかに大変かを身をもって知ることができた。
改めてお酒は大切に飲もうと思う。
世代交代のために、所々に若い木が植えられている。
樹齢60年になるものもあるが、
20から30年の木が勢いがあって良いらしい。
丁度1週間後、再度お手伝いをする機会を得た。
今度の作業は、多く付きすぎた実の間引。
例年だと、蔓1本に対して2房のぶどうを残すそうだが、
今年は花ぶるいがあって、実の数自体が少し少ないので、3房残すとのこと。
なり始めている実を落とすのはなんだか勿体無い気がするが、
実に栄養をきちんと行き届かせるためには、
間引きが必要不可欠なのだ。
チョキチョキと、地道に1房ずつ切り落とす作業を続ける。
そして実がさらに育ってきたら、
雨や鳥から守るため、紙の傘をかける作業に移るという。
ぶどうの実はとてもデリケート。
文字通りの傘が必要なのだ。
もちろん作業はこれだけじゃない。
定期的な草刈りだって必要だし、
新芽が出る時期には、余分な芽を摘む必要だってある。
河内ワインさんのスタッフの皆様が、とんでもない手間をかけて育てたぶどう。
そのぶどうの良いところを余すところなく引き出したワイン。
そりゃあもう美味しいはずである。