2022.7.7

わかさと、酒。

「オバマさん?」

聞いたことのあるような、無いような名前のその酒造は、酒高蔵で扱っている酒造ではなかった。

勿論あの有名な元大統領でもない。

 

「小浜酒造」は福井県小浜市にある出来立てほやほやの酒蔵さんだ。

正確に言うと、旧吉岡酒造が明治時代から(株)わかさ冨士と合併、

事業継承により、1965年まで使用していた酒蔵を使用してあらたに醸造機器を設置。6年前から地酒造りを再スタートした。

酒蔵が年々減少している中で、再スタートに踏み切った酒蔵があることはかなり貴重なことである。

そんな新業態になった小さな酒蔵さんはまだ手探り状態。それを見かねた社長と共にお助け視察に向かった。

 

道中車の窓から見えるのは田、山、木、緑。目は良くなりそう。コンビニないね。

普段の大阪の便利さを感じつつ、窓から入る都心では感じられないおいしい空気を吸い込みながら福井を感じる。

到着し、まず目に入ったのは「わかさ」の文字。赤と水色のコントラストがレトロでかわいい。

そして、やはり辺り一面田んぼ。それが寒くなると蔵人さんたちの車が止められないくらい雪が積もるので、朝5時頃に出社し、雪かきから一日が始まるらしい。

雪とは無縁の大阪に住む私は降雪が少しうらやましかったが、その話を聞いて羨ましさは解けて消えた。

 

現在約10数種類のお酒を販売している小浜酒造。

製造量もそれほど多くなく、仕込みの期間中は杜氏の下に蔵人が4名ついて醸造を行っている。

大掛かりな機械があるわけではなく、杜氏の経験と知恵、そして蔵で働く全員のチームワークが今日の小浜酒造のお酒の味を作り出している。

 

福井県はコシヒカリが生まれた米どころとして、米に熱い場所。酒米も例外ではなく、五百万石をはじめ県内中で栽培され、さまざまな場所の酒蔵で利用されている。

農家さんは酒蔵のフィードバックを経て毎年試行錯誤しながら、良いお米になるよう研究を重ねているそう。

 

そんな小浜酒造のお酒を少しご紹介。


 

【生貯蔵酒わかさ 精米歩合:65%】

こちらは、小浜酒造を後にして立ち寄った地元の飲食店でたまたま飲むことが出来た。

福井県産の酒造好適米と小浜を流れる南川の伏流水を使用した、わかさなじみの酒。

香りは小浜酒造のまだ新しく、きれいな麹室の木の香りがした。そこにお米の香りも追加されなんだか懐かしい感じ。

思っていたよりもさらりとして飲みやすく、キレもある。日本酒初心者の私でも飲みやすい。

一緒に頼んだおつくりと呑めば、福井の自然に染まった気分。

 

【純米酒わかさ 精米歩合:65%】

 

小浜市産の酒造好適米五百万石と小浜を流れる南川の伏流水を使用した、昔ながらの純米酒。

地元のおじいさんから愛されていると聞いていた通り、かなりガツっと辛口がくる。これぞ日本酒という感じ。辛口が苦手な私でも飲みやすいお米の澄んだ感じもある。
地元の方は福井県の伝統料理である、青魚のヌカ漬け“へしこ”と一緒に楽しむらしい。

 

【百伝ふ 精米歩合:65%】

 

香りはお米の皮っぽい香り。

小浜市内の海の近くで湧き出る平成の名水百選に選ばれた「雲城水」を仕込み水として利用したお酒らしく、確かにファーストタッチが瑞々しい。

その後は小浜酒造らしいキレのある味。アルコール感が強めなので疲れている時に呑みたい。

 

【純米吟醸わかさ 精米歩合:55%】

 

福井県の研究所で開発された福井酵母(FK801-C)で醸し、小浜市産の酒造好適米“五百万石”と小浜を流れる南川の伏流水を使用したオール福井県産のまさに「地酒」。

上記の百伝ふと逆という印象。初めに旨味がくるが、すっと溶ける。だが旨味が強い分舌に残る余韻は長い。

香りは他のと比べて一番優しい。

 

(小浜酒造HPから抜粋 https://obama-sake.com/


 

高岡社長は情に熱い方で、地元の協力に常に感謝されていた。

お米を育ててくださった農家さんに申し訳なく、お米を削る精米歩合さえも惜しいらしい。

そして、まだまだ知らないことが多い、福井県の日本酒の有名どころが強い、ベテラン杜氏との意見の対立…悩みも尽きないようで、どこへ向かうか決まっていない感じが、なんとなくラベルからもうかがえる。

 

晩御飯を食べる前にたまたま立ち寄った人魚浜の景色。

車を降り防波堤に上って海を見ながら深呼吸。

しばらく遠出をしていなかった私は宝石のようにキラキラ輝く若狭湾を見てなんだか胸がいっぱいになった。

 

豊かな自然、人の温かさ、田舎ならではの落ち着きと安心感。
訪れたのは初めてだったはずの福井県は、前にも来たことがあるような、なんとも言えない懐かしさを感じた。

この先小浜酒造の悩みの雲が晴れ、福井県を照らす陽の光になるような、福井県の温かさまでを思い出せるような地酒になって欲しいという期待感と、まだまだ分からないことだらけの私も頑張ろうと勇気づけられる一日になった。