2021.2.8

琵琶湖のオスの鮒に価値を作りたい。

滋賀県の珍味、鮒ずし。
「鮒ずし」というと、お腹にオレンジ色の卵がギッシリ詰まったイメージ。

鮒寿しは、塩漬けにした鮒をご飯に漬け込んで乳酸発酵させたもので、
そのイメージと認知の通り、メスの価値は市場でも高い。

さて、ここで問題です。
オスの鮒って皆さん考えたことはあるでしょうか?

市場に出回っていることもあまりないので、
オスの鮒ずしの存在について深く考えたこともなかったのではないでしょうか。

この鮒、特に認知度の低い「雄の鮒」について
“価値を高めたい”
そんな思いで立ち上がった人がいます。


奥村佃煮 奥村吉男さん。沖島の漁師から水揚げされる湖魚の仕入の担当として働く。

先日、私たちがお会いした奥村さんは
漁業と関わっているだけあって、ガッチリした体つきに驚きながらも、
その外見とは裏腹に、気さくで丁寧な印象を持っている方でした。

「雄の価値は低いんです。。人間もそうですけどね!」


雄の鮒を活用した商品「Yoshio Fermented Foods ∼鮒寿し×つやこフロマージュ∼」
頭から尻尾まで、全てに商品。

そんなジョークを交わしながらも
鮒ずし自体は、1400年の歴史を持つ文化的料理。

それを新しい概念で、価値をつける。
その思考から、奥村さんは雄の鮒のお腹に
なんと「チーズ」をつめて、
通常の鮒ずし同様に、乳酸発酵させたのです。

「チーズを入れているので普通の鮒ずしよりも発酵力がすごいんです。
重しに載せている石が発酵で飛んでいってしまうくらいの力なんです。」

そう話す奥村さんの話からは
発酵の力と、作り手の苦労が垣間見えます。

その味わいは…
チーズのまろやかな味わいが鮒ずし特有の味わいを
包み込んでくれている…!!

白ワインはもちろん、濃いめの梅酒、味のある純米酒。。。
どれも合いそう。

酒屋の私たちの自動ペアリングも
発酵のように勝手に進みます。

「本当は海外への提案もどんどんしていく予定だったが、
このご時世の影響もあって。。でも使っているチーズも国産のものですし、
日本の鮒と日本の伝統的な作りをもって作り上げたので、
国内での認知を広げたいと考え方もシフトしています。」

雄の鮒の話をしている瞳の奥には、
揺らがない想いを、強く感じました。


〈Yoshio Fermented Foods〉ブランドロゴ。紙袋の一部には♂のマークがポイントで入っていたり。

雄の価値をあげたい。
捨てられる鮒の価値をあげたい。
おいしく食べられる商品に加工することで、
新たなビジネスの可能性を生み出し、
琵琶湖の水産業を盛り上げられるのでは? 

そういった想いで立ち上げたこのプロジェクトは、
家業として継いだものの世界観とは別に、
新たな挑戦ブランドとして確立したのは、

パッケージからロゴまで、
カジュアルでナチュラルな表現も、
若い方にも興味を持ってもらえるような表現も、

どれも辻褄のあう話。

新しい革命者として、とても印象的な出会いでした。

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[ 伝える人 ]

奥村佃煮 奥村吉男さん

昭和45年(1970年)から続く、近江佃煮庵 遠久邑(株式会社奥村佃煮)は
奥村さんの家業。25歳の時に継ぎ、この雄の鮒を救うプロジェクトとして
〈Yoshio Fermented Foods〉を立ち上げる。
沖島の漁師から水揚げされる湖魚の仕入の担当として働く奥村さんは、
毎日魚港へと向かう中で、メスとくらべた時の価値の低さから
廃棄されてしまう雄の鮒に目を向けたのがきっかけ。
現在も各地でこのチーズ鮒ずしの価値を広める活動を続けている。