2021.12.13

鯨と亀。1

亀はゆっくりと、着実に前へ進む。

長い長いトンネルを抜けて辿り着いた、四国の端は高知県。
空腹の中、高知名物カツオのたたきに思いを馳せながら
さらに西に車を走らせ、まず訪ねたのは
周りを山と川に囲まれた、自然豊かな亀泉酒造。

周りには、鳥のさえずりと川のせせらぎが聞こえるのどかな場所に
ぽつんとそびえる亀泉。

そんな亀泉の代表作といえば、cel-24。

日本酒の中でも華やかな香りと甘酸っぱさで、
若い方でも飲みやすいと人気のこのお酒はさぞかしモダンなお酒かと思いきや、
聞いてみると実はかなり渋い生い立ちで。

cel-24とは、その名も酵母の名前。

高知県限定で使用されるcel-24酵母は、
前身のcel-19という酵母を改良し、
さらにリンゴ系の香りを桁違いに強めたもので当時としてはかなり前衛的な酵母だったそう。

そんな酵母の名前をそのまま酒の名前にし、
さらにラベルは当時の裏貼り(裏ラベル)をそのまま表にしたというのだから、
渋いというかむしろロックに近い、そんな尖りっぷり。

そんなcel-24も、最初はタンクのうちの1つだけだったのが今では何十倍もの醸造量で、
海外への輸出も人気なのだという。

しかし、どんなに輸出の要望が増えても、国内での出荷分を残すために売り切れ御免というのだから、
そこがさすが亀。

着実に進む、芯の強さが伺える。

背丈ほどもある大きな棚には、
数え切れないほどのcel-24ラベルだけが並ぶ。

同じように作っても毎回スペックが変わるので、なんとタンクごとにラベルを作り変えているのだという。

見た目が同じでも、中身は少しずつ違う。そんな小さなこだわりが亀泉を作り上げていく。

そして、他のお酒達は、カラフルでモダンな装いでまとめられていく中、
cel-24だけはこのまま。
お客さんから、cel-24もこれにしたらもっと売れるのに。なんていう声もあったそうだが、

「いやいや、こいつはこれでいいんですよ。」

自信を持って答えるその言葉に、もう誰も異論は唱えまい。

笑顔と香りが溢れる酒。

美味しい水と特別な酵母で、変わらずゆっくり着実に進み続ける亀泉酒造は、
せわしない現代に生きる私を、一歩立ち止まらせてくれる、そんな素敵な場所だった。