2021.9.20

巴里の空の下オムレツのにおいは流れる。

オムレツは、フランスの家庭料理らしい。

下宿先のマダムが言った、
「今夜はオムレツよ」。
その一言だけで、パリでのオムレツというものが
“料理”として確固たる地位を築いていることが伺える。

軽やかに描写されるマダムのオムレツレシピは、
驚くほどたくさんのバターを使うらしく、聞いているだけでお腹がすいた。

熱したバターに注がれた卵をフォークで手ばやく中央に向けてやわらかい卵のヒダを作り、全体が薄い黄色の半熟になったところで、片面をくるりと返して、
火を消し、余熱でもう一度ひっくり返して半面を焼いて形を整えたら出来上がり。
外側は焦げ目のつかない程度に焼けていて、中はやわらかくまだ湯気の立っているオムレツ。

パリのマダムが作る完璧なオムレツ。
家でそんなオムレツを作ろうとして何度失敗したことか。
(大体は、ケチって卵の数が少ないのが原因なのだけど。)
パリのマダムはさぞ料理が上手だったんだろう。

いつかバターたっぷりの
誰にも文句を言わせないふわふわオムレツを作って、
完璧なペアリングで乾杯するんだ。
そう心に誓って、今日もコンビニのオムライスをチン。

挿絵がないのについつい引き込まれてしまったのは
エッセイの力なのか食べ物への欲深さのせいか…。

巴里の空の下オムレツのにおいは流れる。
それは一九五〇年代のパリ暮らしと思い出深い料理の数々を軽やかに歌うように綴った、料理エッセイ。