2020.4.7

現代にいるからこそ知れる昔の味わい – 新生 獺祭45 –

社会人になってから飲むようになった獺祭。

私がインターンをさせて頂いている際に「お酒の事は何も知らないのです」
とご相談頂く方にまずご提案をするお酒です。

それは学生の時に〈初めて飲んだ日本酒〉が獺祭ならば、
私の日本酒ライフは間違いなく変わっていただろう、という理由からです。
その当時、私が行っていた居酒屋にはまだ獺祭を置いていなかったのです。(地域、お店に差はありますが)

もさて、今回のお酒は前述の通りの獺祭なのですが、
レギュラーの獺祭ではない【新生】獺祭45です。

レギュラーの獺祭45と飲み比べしてみましょう。(この時間がまた楽しいんですねぇ)
レギュラーの獺祭とはまた少し味わいが違い、
野性味というかワイルドさというか、元気な印象を受けます。
レギュラーの獺祭45とは違ったベクトルのエネルギーが内包されているニュアンスですね。

例えるなら…冬に雪の下にいた野菜が春になって芽吹くような感じです。
春野菜のアクというのは生きるエネルギー、という話を聞いた事があります。
そのエネルギーに近いかもしれません。

さて、このお酒と一緒に聴きたい曲ですが…

イタリアの作曲家
【アルカンジェロ・コレルリ】(1653-1713)作曲の【ヴァイオリン・ソナタヘ長調op.5-4

は如何でしょうか。

「コレルリ」という作曲家は、バイオリン奏者でもありました。
合奏協奏曲とバロックソナタの形式を完成させ、
ヴィヴァルディら次代の音楽家に多大な影響を与えた作曲家です。

まず現在、私達が主に弾いているヴァイオリンは
「モダン・ヴァイオリン」というもの対し、この時代の楽器は
バロック・ヴァイオリン」というものが使われておりました。
ヴァイオリンと言う楽器には変わりはないのですが、
バロックヴァイオリンはモダンと比べて

・顎当て、肩当てがなく、弦がスチール弦ではなくガット弦(羊の腸をよった物)
・弓の形が本当に弓なり

なのです。

モダンに比べ音量は繊細であり、音色は柔らかな、優雅な音です。

このソナタは五楽章で構成されていて、緩-急-急-緩-急という順番です。
一つの楽章が短いので、全く飽きません。

そして、楽章ごとの表情が様々で、とても楽しくなります。
特に二楽章と五楽章が元気があって、明るく、エネルギーを分けてもらえそうな音楽です。
バロック時代の音楽はとても耳馴染みが良いので聴き流してしまいそうになるのですが、
落ち着いて、そして腰を据えて聴いてみると、実はとっても味わい深いのです。

特に私が好きな演奏といえば
・安永徹先生(元・ベルリンフィル第一コンサートマスター)
・市野あゆみ先生(ベルリンフィルの本拠地でも数多くの演奏会をこなしたピアニスト)
のお二人が演奏なさっているCDです。(こちらはモダンヴァイオリン)

日本酒の歴史も古く、室町時代(1334〜1493)の書物
「御酒之日記」では乳酸発酵、木炭濾過が、「多聞院日記」には火入れによる殺菌や
段仕込みの方法が記されている等、現在使用されている技法が
室町時代には既に確立されていました。

新生獺祭45の入ったグラスを傾けながら、バロックヴァイオリンの演奏で
当時を感じて聴くも良し、モダンの演奏で現代に紡がれた音を聴くも良し。

日本酒も音楽も、現代にいるからこそ知れる昔の味わいは、
今を生きている感謝を呼び起こします。

(writer/ヴァイオリニスト 高橋宗久)